共同親権の導入に向けた議論(弁護士:細野 希)

この記事を執筆した弁護士

弁護士 細野 希

細野 希
(ほその のぞみ)

一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:新潟大学法科大学院修了
新潟県都市計画審議会委員(2021年~)、日本弁護士連合会国選弁護本部委員(2022年~)を務めています。
主な取扱分野は、離婚と交通事故。そのほか、金銭問題、相続など幅広い分野に対応しています。数多くの企業でハラスメント研修、相続関連セミナーの外部講師を務めた実績があります。
依頼者の方の悩みを聞き、判例や実務の考え方を考慮しつつ、採り得る選択肢を示して、依頼者の悩みや不安を少しでも軽減できるように努めます。

1 離婚後の親権者に関する規律の見直し

家族法制の見直しに関する中間試案の取りまとめに向けた議論において、離婚後の親権者に関する規律が検討されています。


現行法では、未成年者の子がいる夫婦が離婚する場合、どちらか一方を親権者として定めて離婚することが求められています。

しかし、共同親権を導入するべきという意見があることも踏まえて、日本でも共同親権に関する検討がなされています。


2022年11月現在において、まだ共同親権の導入が、具体的に決定しているわけではありませんが、共同親権に関する様々な考え方を取り上げてみたいと思います。

2 共同親権とは

現在、議論がなされている共同親権とは、離婚後の父母双方が、親権を有することについての可否です。

共同親権の導入といっても、単純に離婚後の単独親権を廃止し、共同親権しか認めないという案だけではありません。


共同親権の導入方法については、①共同親権を原則とし、一定の要件を満たす場合に限り、協議又は審判により、父母の一方のみを親権者とすることができるという案や、②単独親権を原則とし、一定の要件を満たす限り、協議又は審判により、共同親権とすることができる案など様々な案が検討されています。

3 監護権とは

親権には、身上監護権と財産管理権があります。

親権のうち身体上の監護保護をする権利のことを監護権といいます。

親権の中に監護権も含まれますが、現行法では、親権者と監護権を分離することも可能です。


もっとも、実務上は、離婚時に親権者と監護権を分離して離婚する場合は少数であり、親権者が決まれば、その者が、子の監護する場合が多いと思います。


共同親権が導入された場合でも、夫婦が離婚後、別居することに変わりないので、子どもは、父または母のどちらかに監護されることになります。


そのため、共同親権の導入と共に、監護権に関する規律も一緒に見直すべきかについても議論されています。

離婚後に共同親権とする場合、監護者について、①必ず監護者を定めなければならない案や、②監護者の定めをすることも、監護者の定めをしないこともできる案などが検討されています。

4 共同親権に賛成する意見

共同親権に賛成する意見は次のとおりです。

①婚姻期間中は共同親権であり、離婚後にも、一方の親による単独親権よりも、父母による共同親権の方が子どもの福祉に適う。

②子どもが成長するに当たって、双方の親から関心をもたれて、愛情を注がれることは、子どもの精神的な安定にも繋がる。

③離婚後も、父母が協議し、養育に関する事項を決めることは、子の利益になる。

④共同親権にすれば、離婚時の親権者に関する争いがなくなる。

⑤単独親権の場合よりも、共同親権の方が、面会交流の実現や養育費の支払いについても、親としての責任を果たしやすい。


共同親権に賛成する意見は、父母が子どもの養育に関わっていくことが子どもにとってメリットがあるという考え方を前提としていると思います。


前記のとおり、共同親権を導入するにしても、単に、単独親権を廃止し、共同親権の定めをするという案だけでなく、それを修正する案も検討されています。

また、監護権に関する規律も一緒に見直しが検討さています。

仮に、共同親権が導入される場合でも、反対する意見に配慮しつつ、共同親権や監護権が法改正されると考えられます。

5 共同親権に反対する意見

共同親権に反対する意見は次のとおりです。

①離婚後、夫婦の信頼関係は失われているので、子どもの養育に関する事項を決めるために、父母が共同で協議することは現実的には難しい。

②DVや虐待が原因で、避難し、離婚するような場合、共同親権にすると、離婚後も関わりが断ち切れず、安全が脅かされて、精神的にも負担になる。

③離婚後、夫婦は別居することになるが、子どもの養育に関する事項は、現実に、子どもを監護する者が決める方が、子どもの福祉に適う。父母の協議を必要とすると、意見が一致しない場合、子どもの利益を害する。

④離婚しても、父母で協力して子どもを養育している場合はあるので、あえて共同親権を導入しなくても、協力して監護することは可能であり、子どもに不利益はない。

⑤共同親権を導入しても、どちらが子どもを監護するのかの問題は残るのであり、離婚時の負担軽減にはならない。


共同親権の導入を賛成する意見がある一方で、根強い反対意見もあるところです。


例えば、離婚理由が、身体的な暴力(殴る、蹴るなど)、精神的な暴力(暴言を吐く、罵倒するなど)、経済的な暴力(生活費を渡さないなど)などの場合、一方が他方を支配するような関係になっているので、共同親権を導入しても、父母が対等な立場で協議することは困難です。

共同親権に反対する意見は、離婚後、父母で協力できない場合、子どもは板挟みになるので、子どものメリットにはならないと考えています。

6 親権者が問題になる期間

親権は、成人に達しない子が対象になるので、子どもが成人に達した場合は、親権が問題になりません。

成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことにより、離婚時の親権者に関する議論も、子どもが18歳になるまでになります。


離婚時に、子どもの年齢が成人年齢に近ければ近いほど、離婚時の親権者に関する法改正の議論の影響は少ないのかもしれません。


他方、まだ子どもが幼い場合には、成人年齢になるまでの期間が長いので、共同親権の導入に関する議論は、今後、離婚を検討する夫婦にとって大きな影響が及ぶ議論になると思います。

7 おわりに

共同親権の導入には、賛成意見も反対意見もあり、その理由も様々です。

また共同親権を導入する場合でも、その規律をどのように定めるのかについても検討がなされています。


離婚後に単独親権の方がいいのか、共同親権の方がいいのかは、それぞれのご家庭の事情や親子の関係性により異なると思います。


2022年11月現在で、法改正の具体的な見通しが立っているわけではありませんが、共同親権の導入は、離婚後の親子の生活にも影響が及ぶ話になるので、離婚を考える夫婦にとって関心がある話題だと思います。


共同親権の導入は、離婚時の子どもに関する取り決めにおいて大きな変更になるので、今後の法改正の推移を見守る必要があると思います。


※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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