離婚届を勝手に提出されたら、離婚は成立するのか?(弁護士:中澤 亮一)

協議離婚をするときには離婚届を作成し提出しますが、この離婚届は、当事者(夫婦)両名が直筆で署名することが原則として必要になっています。

ところが、夫婦関係が悪化してしまい一方は離婚したいけれども、もう一方は離婚したくないというような状況に陥ってしまった場合、離婚したい方が勝手に離婚届を作成し、提出してしまうということがあり得ます。

このような場合、離婚は成立してしまうのでしょうか?

そもそも離婚はどのようなときに成立するのでしょうか。

民法では「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と定めていますので(民法763条)、「夫婦の双方に離婚の意思があること」が実質的な要件として必要であり、また、形式的な要件として役所への離婚届の提出も必要となります。

これらが揃ったとき、離婚は成立するのです。

このことからすると、夫婦の一方に離婚の意思が無ければ、勝手に離婚届を出されたとしても離婚は成立しないことになります。

しかし、役所の担当者は、提出された離婚届に明らかな形式的な不備がない限りは、それを受理してしまいます。

役所の担当者には当事者の離婚意思まで把握することは困難だからです。

つまり、夫婦の一方が無断で離婚届を提出した場合であっても、(形式的には)離婚は成立してしまうのです。

なお、戸籍法の定めにより、本人が離婚届の提出に出頭したことが確認できない場合にはその当事者に通知するとされているので、勝手に離婚届を出された場合は、役所からの通知でその事実を確認することはできます。

こうなってしまうと、出された方としては離婚の無効を求めて調停を申し立てたり、離婚無効確認の訴えという裁判を起こしたりせねばならず、非常に面倒なことになります。

このように勝手に離婚届を提出されることを防止するため、「離婚届不受理申出制度」というものがありますので、もしかしたら勝手に離婚届を出されるかもしれないという方は検討するとよいと思います。

もっとも、相手方に離婚の意思がないのに無断で離婚届を提出するという行為は、犯罪です。

具体的には、有印私文書偽造罪(刑法159条)、偽造私文書行使罪(刑法161条)、電磁的公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)などが成立する可能性があり、そのような虚偽の離婚届を提出したうえで再婚するとさらに重婚罪が成立するおそれもあります。

逮捕や起訴をされることも十分に考えられる罪ですので、絶対に行ってはいけません。

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年8月5日号(vol.283)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。


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この記事を執筆した弁護士

弁護士 中澤 亮一

中澤 亮一
(なかざわ りょういち)

一新総合法律事務所 理事/上越事務所長/弁護士

出身地:新潟県南魚沼郡湯沢町 
出身大学:早稲田大学法科大学院修了
国立大学法人における研究倫理委員会委員、新潟県弁護士会学校へ行こう委員会副委員長などを務める。
主な取扱分野は、離婚、金銭問題、相続。また、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)などにも精通しています。

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