離婚時に年金分割しないとどうなる?知っておくべき制度・リスク・手続き

離婚に際して年金分割をどうするかは、離婚後の生活資金に大きく影響してきます。
しかし、「そもそも何を分ける制度なの?」「分割しないとどうなるの?」という疑問をお持ちの方も多くいらっしゃいます。
この記事では、年金分割制度の仕組みや手続き、分割しなかった場合のリスクに至るまで、幅広く解説していきます。
1.年金分割とは?
離婚時の年金分割とは、婚姻期間中に夫婦のいずれかが厚生年金(または共済年金)に加入していた場合、婚姻期間中の標準報酬(給料・賞与額)に基づく年金記録を夫婦双方で分ける制度です。
収入が少ない側や専業主婦(主夫)だった側は、自身の年金記録が不足している場合が多く、年金分割を行わないと老後の生活費が著しく減少する可能性があります。
年金分割の目的は、こうした経済的リスクを最小限に抑えるために、婚姻期間中の保険料納付記録を分け、夫婦間の厚生年金の受給額を公平化することにあります。
ここで誤解されやすいのは、「年金分割=年金の受給額そのものを半分にする」と思っている方が多い点です。
正しくは、標準報酬などの「保険料納付記録」を分ける制度であり、その結果として将来の受給額が変動することになります。
なお、年金分割は“記録(受給額)を調整する制度”であり、年金の受給開始年齢が早まったり遅くなったりするものではありません。
年金分割は厚生年金・共済年金が対象

離婚時の年金分割の対象となるのは、厚生年金または共済年金(※)の加入記録です。
つまり、夫婦のいずれか、または双方が会社員や公務員などである場合は、年金分割の対象となるケースが多くなります。
婚姻期間中の収入差が大きいほど、片方に偏っている年金保険料の記録を適切に分割する意義が高まります。
一方で、国民年金に加入している場合は、その保険料納付記録については年金分割の対象となりません。
国民年金は定額保険料を基礎とする制度であり、所得による差が基本的にないため分割の対象とはならないのです。
(※共済年金は、以前は公務員や私立学校教職員などが加入対象とされていましたが、2015年10月1日をもって厚生年金保険に統一されました。)
企業年金は分割対象にならない?
企業年金や確定拠出年金、民間の年金保険などは、年金分割の対象には含まれません。
ただし、夫婦が協力して築いた財産(共有財産)と見なされた部分については財産分与の対象として取り扱える可能性があります。
実際の手続きや詳細については、専門家に相談して確認するとよいでしょう。
2.年金分割制度2種類|合意分割と3号分割
年金分割には、大きく分けて夫婦の合意にもとづく「合意分割」と、第3号被保険者のための「3号分割」の2種類があります。
婚姻期間に応じて両制度が併用されることもあり、2008年3月以前の期間は合意分割、2008年4月以後の第3号期間は3号分割の対象となります。

合意分割とは
合意分割制度とは、離婚時に夫婦の一方または双方からの請求により、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦双方で分割することができる制度です。
合意分割では、夫婦間の話し合いによる合意または裁判手続きによって按分割合を定めた後、その割合に従って年金分割を行います。合意内容をまとめた合意書等を年金事務所に届け出て手続きをする必要があります。
合意分割による按分割合は、最大で50%の範囲で調整することが可能で、50%とされることが一般的に多いですが、双方の貢献度や経済状況に応じて異なる按分割合を定めることも可能です。
合意分割の対象となるのは、以下の条件に該当している場合です。
| ●婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。 ●夫婦間の話し合いによる合意、または裁判所の調停・審判により按分割合を定めたこと。 ●請求期限(原則、離婚が成立した日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。 |
婚姻期間中、夫婦ともに厚生年金に加入していた場合であっても、「夫婦の収入差が大きい」「婚姻期間が長い」というケースでは、分割を行うことで受給額の差を埋めることが可能となります。
3号分割とは
専業主婦(主夫)やパートなどで、会社員や公務員の配偶者の扶養に入り第3号被保険者として年金に加入していた期間に関しては、「3号分割」の対象となります。
3号分割は、夫婦間での合意は必要なく、年金事務所等に請求手続きをすることで2分の1の割合で年金記録が分割される仕組みとなっています。
3号分割の対象となるのは、以下の条件に該当している場合です。
| ●2008年4月1日以後に第3号被保険者の期間があること。 ●請求期限(原則、離婚が成立した日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。 |
3.年金分割をしないとどうなる?
年金分割をすることでメリットがあるのは、収入の少ない配偶者側です。
厚生年金は加入状況に応じて支払われるため、自身の加入期間が短い、あるいは加入期間中の標準報酬総額が少ないほど実際の受給額が限られてくるためです。
婚姻期間中に専業主婦だった方などは、離婚の際に年金分割をしないと将来の年金受給額が少なくなる可能性がでてきます。
実際にかかる老後の生活費
自営業や専業主婦(主夫)だった期間は厚生年金に加入していないため、年金分割をしない場合は国民年金加入分しか受け取ることができません。
老齢年金が国民年金のみである場合、1カ月あたりの年金受給額は、2025年度(令和7年度)の時点で満額でも6万9308円です(※国民年金に40年間加入した場合、老齢基礎年金部分のみの金額です)。
一方、総務省の「家計調査/2024(令和6)年平均」によると、65歳以上の単身無職世帯の家計では、実収入から非消費支出(税・社会保険料等)を差し引いた可処分所得約12.1万円に対して、消費支出は約14.9万円で約2.8万円の不足となっています。
この金額はあくまで目安となるものですが、老後の生活を迎えるまでに十分な資産形成ができておらず、年金が老後生活の主な収入源となる人は、年金分割をしない場合、老後の生活費が足りなくなるおそれがあるのです。
参考:国民年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
参考:総務省「家計調査」(家計収支編)/2024(令和6)年平均結果の概要
年金分割をするといくら増額するの?
厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 (p.29離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移)」によると、離婚時に年金分割を行った場合、分割を受ける側(主に専業主婦や収入が少ない配偶者)の年金受給額は、平均で月額約3万円増額しています。
| 【分割を受ける側の平均年金月額(国民年金含む)】 分割前: 約5万7,979円 → 分割後: 約9万1,081円 =増額分(平均)約3万3,000円 |
これは、分割を受ける側の平均年金月額(老齢基礎年金を含む)の分割後の増額分から考えられるあくまで目安額となっています。
分割後の増加額は、年金分割の対象となる婚姻期間や、夫婦間の収入差など個々の状況により大きく変動する可能性がありますが、年金分割の対象となる期間がある場合には、離婚時に年金分割を行うことで婚姻中に相手が納めていた厚生年金保険料の一部を自分の記録に組み込むことができ、結果として老後に必要な生活資金を安定して受け取ることができるのです。
4.離婚後に年金分割はできる?
年金分割をせずに離婚した場合でも、離婚が成立した日から起算して2年以内であれば年金分割の請求は可能です。
事実婚の場合には、事実婚が解消したと認められる日を起算日とします。
3号分割の場合は、双方の合意は不要ですので、期限までにお近くの年金事務所で請求手続きを行いましょう。
合意分割の場合には、離婚時の離婚協議書や公正証書で「年金分割を行う合意」の旨が明記されていればスムーズに手続きに進むことができますが、取り決めがなかった場合には、話し合いが難航する可能性があります。
万が一、相手方が話し合いに応じず年金分割をしてくれない場合は、離婚成立日から2年以内であれば家庭裁判所へ調停や審判を申し立てる方法も取ることができます。
ただし、法的手段に移行すれば、時間や費用の負担が増え、精神的なストレスも生じます。
話し合いに応じてもらえない場合には、早めに専門家へ相談し適切な解決方法を探ることをおすすめします。

離婚後の年金分割請求のながれ
実際に年金分割を申請する際には、以下のようなステップを順番に踏むことになります。
| ①年金分割のための情報通知書の取得 ▼ ②年金分割の割合について話し合う(合意分割の場合) ▼ ③年金事務所へ請求手続きを行う ▼ ④標準報酬改定通知書の受け取る |
年金分割請求をするには、まず年金記録に関する情報通知書を取得することからスタートします。
年金分割の方法・書式・具体的な手続きの流れについては以下のコラムで詳しく解説していますのでご参考になさってください。

離婚時に年金分割をしないことに合意していた場合
3号分割であればそもそも合意の必要がなく、自動的に2分の1ずつで分割されるため、「年金分割をしない」旨の合意があったとしても請求手続を行うことが可能です。
合意分割を希望する場合には、双方の話し合いにより按分割合について合意する必要があります。そのため、離婚時に合意分割について「年金分割をしない」と明確に合意している場合は、その合意が尊重され、後から合意分割を求めても認められにくいとされています。
請求期限を過ぎた場合の特例はある?
離婚成立から2年を経過するまでに年金分割について審判または調停を申し立て、審議中に本来の請求期限が経過してしまった場合には請求期限の延長が認められます。
延長後の請求期限は、審判の確定日または調停の成立日の翌日から起算して6か月を経過する日までです。
分割の手続き前に当事者が亡くなった場合
分割のための合意または裁判手続きによる按分割合の決定後、分割手続きを請求する前に当事者の一方が亡くなった場合は、死亡日から1カ月以内に限り分割請求が認められます。
離婚から2年以内であっても、死亡日から1か月を過ぎると請求できなくなるため注意が必要です。
その際には、年金分割の割合を明らかにすることができる合意書や調停調書等の書類の提出が必要です。
5.年金分割を優先しなくてもよいケース
個々の状況によっては、年金分割を優先しなくてもよいケースがあります。
①自分の厚生年金加入実績が十分ある
自分の厚生年金加入実績が十分にあり、かつ配偶者との収入差があまりない場合には、年金分割を行っても年金受給額の増加が限定的なケースもあります。
また、夫婦が共働きでいずれも厚生年金加入しており、婚姻期間中の給与収入が配偶者を上回っている場合は、自分が分割する側になってしまうため、年金分割することにより当然に自分の年金受給額が減ってしまいます。
②自分の年金加入期間が10年未満の場合
公的年金を受け取るためには、国民年金または厚生年金の保険料納付期間が10年以上あることが必要です。
年金の受給開始である65歳時点でご自身の加入期間が10年に満たない場合、年金分割をしても年金を受け取ることができません。
ただし、年金受給資格を満たすために65歳を過ぎてからも保険料を納める任意加入制度があります。
最終的な加入期間が10年を超える見通しであれば、年金分割をしておいたほうがよいでしょう。
③財産分与で十分な資産を受け取れる場合
離婚条件を交渉する際に財産分与で不動産や養育費・慰謝料などを多めに取得したほうがトータルで受け取れる金額が大きくなる場合もあり、年金分割を譲歩することでそのような解決が実現できるのであればあえて年金分割を行わない選択も考えられます。
実際にはどの程度の年金額を確保できるか、離婚時に相手と分割割合についてどう合意できるかなど、個々のケースによって状況は変化しますので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
▼専業主婦の場合の財産分与については下記コラムにて詳しく解説しています▼

6.年金分割に関するよくある疑問
年金分割に関するよくある疑問をまとめました。
①配偶者が国民年金に加入している場合は?
配偶者が自営業や農業従事者などの第1号被保険者、あるいは専業主婦(主夫)など第3号被保険者で厚生年金保険に加入していなかった場合、国民年金は分割の対象外ですので、相手に対して分割請求はできません。
一方で、自分が厚生年金保険に加入していた場合には、配偶者から分割請求をされる可能性が高くなることにご注意ください。
②年金分割を拒否することはできる?
3号分割の場合、請求権が相手に認められているため拒否することはできません。
同意も不要ですので、第3号被保険者だった配偶者(=扶養に入っていた妻・夫)が、離婚後2年以内に請求すれば、自動的に1/2で分割されます。
合意分割の場合も、一方的に拒否し続けることは難しいです。
相手側からの請求を拒否し続けた場合、相手方は調停・審判を申し立てることができます。
調停や審判になった場合は、裁判所が客観的事情(収入差、婚姻期間、生活状況など)を見て、按分割合を決定します。
③分割する側がすでに年金受給中でも分割できる?
すでに年金を受給している場合でも請求により分割できます。
合意が得られれば、請求した翌月以降の支給額から改訂されます。
④再婚したら年金分割した分は無効になる?
無効になりません。
再婚しても、離婚時に年金分割された分の年金記録・受給権はそのまま有効で、減額も停止もされません。
7.将来の生活を見据えた年金分割を
老後の生活資金を安定させるためにも、離婚時の年金分割はとても重要な検討事項です。
分割は、特に専業主婦(主夫)や収入が少ない側にとって、老後の生活費を安定させるための要といえるでしょう。
特に、婚姻期間が長く、ご自身が配偶者の扶養に長い期間入っているケースの熟年離婚の場合には、年金分割をどうするかがとても重要になってきます。
離婚に伴うさまざまな手続きや財産分与、子どもの養育費の取り決めなどに追われていると、年金分割についての話し合いを忘れてしまい、うっかり請求期限が過ぎてしまうこともあります。
重要な老後資金を確保するためにも、早めに年金事務所で必要書類を確認し、年金分割についてしっかり検討することが大切です。
一方で、財産分与や養育費、慰謝料など、ほかの離婚条件で十分な財産を受け取ることが見込めるなど、あえて年金分割を行わないほうが総合的にみてよい場合もあります。
老後の資金全体を見据えた上で、自分にとって最適な選択肢を探るためにも、年金分割が本当に得策かを弁護士などの専門家に相談しながら総合的に検討することが大切です。
弁護士は、あなたの代理人となり年金分割の手続を進めたり、相手との交渉にあたります。
協議で合意が得られず、調停や審判など裁判手続きになった場合にも、弁護士であればワンストップで対応することができますし、年金分割以外の離婚条件交渉についてもトータルで対応することで、あなたの将来の生活を見据えた解決を目指し、迅速かつ丁寧にサポートすることが可能になります。
一新総合法律事務所では、年金分割の取り決めや、離婚問題に関するお悩みに関するご相談を承っております。
まずはお気軽に一新総合法律事務所の離婚チーム弁護士へご相談ください。
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