財産分与と退職金 ~企業と離婚~(弁護士:橘 里香)

この記事を執筆した弁護士

弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市 
出身大学:青山学院大学法科大学院修了
新潟県弁護士会子どもの権利委員会副委員長を2019年から務めています。
離婚チーム長を務め、主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

1.はじめに

離婚問題は個人の問題で会社は関係しないと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、従業員の離婚問題に会社が関わる場面がいくつかあります。
そこで、本号から3回に分けて、企業と離婚の問題についてお話をしていきたいと思います。

最初のテーマは、財産分与と退職金の問題です。

 

2.財産分与請求権の「財産」対象は?

離婚に当たっては、財産分与請求権という請求権が認められています(民法768条)。

これは、夫婦が婚姻中に夫婦の協力により取得した財産は、いずれかの名義であるかに関わらず、実質的には夫婦の共有財産として、公平に清算分配すべきとの考え方に基づくものです。

特に熟年離婚のケースなどでは、財産分与の額の算定に際しては、退職金の半分の分与を求められ争いとなるケースも存在します。

 

3.将来の退職金が、財産分与の対象になることも

退職金が財産分与の対象に含まれるか否かについては、裁判例でも考え方が変化してきているところです。

以前は、将来支給されるものであり、定年前に懲戒解雇になったりすれば受けられない金員であり、受給が確実ではないことから、将来の退職金は財産分与の対象としないとした裁判例もありました。

しかしながら、近時は、退職金は給与の後払的性質を有するものであるとして、「近い将来に受給し得る蓋然性」がある場合には、財産分与の対象とするべきであるという裁判例が主流となってきています。

「近い将来に受給し得る蓋然性」の有無については、定年退職までの期間はもちろん、企業の規模や経営状況、勤続年数などが総合考慮されて判断されます。
公務員や大企業などでは、退職まで年数があるケースでも退職金が財産分与の対象とされてきています。

 

計算方法についても裁判例によって異なる計算方法が存在します。

最近比較的多い方法は、財産分与基準時点(例えば、別居時や離婚時など)において自己都合退職した場合の退職金の金額を稼働期間と婚姻期間で按分して算出する方法です。
この場合、企業から基準時点の退職金額の計算書を提出してもらい、稼働期間と婚姻期間で同額を按分して計算することになります。

上記計算方法以外にも、裁判例によっては、定年退職時の退職金から、婚姻前や別居後の労働分を差し引き、ライプニッツ係数による中間利息控除をしている例もあります。
この場合には、定年退職時の退職金額の資料が必要ということになります。

従業員から、離婚問題で退職金の証明書を出して欲しいと依頼を受ける場合もあるかと思いますが、そのような場合には、上記のような計算のための資料として必要となるため、いつ時点のどのような退職金額の資料を必要としているかを確認の上、ご対応いただければと思います。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年5月5日号(vol.256)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

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