嫡出推定見直しの答申について(弁護士:橘 里香)

この記事を執筆した弁護士

弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市 
出身大学:青山学院大学法科大学院修了
新潟県弁護士会子どもの権利委員会副委員長を2019年から務めています。
離婚チーム長を務め、主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

1 嫡出推定期間見直しの答申

令和4年2月14日、法制審議会は、嫡出推定規定を見直すよう法務大臣に答申しました。

嫡出推定とはどのような規定で、何が問題なのでしょうか。

2 嫡出推定とは

実際の父子間の血縁関係ではなく、生まれた時期で父子関係を推定する規定のことを嫡出推定規定と言います。

現行の民法第772条は嫡出推定について、

  • 1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
  • 2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

と規定しています。


この規定は明治31年に施行され、以降現在まで続いています。


婚姻している妻が妊娠した子は戸籍上の夫の子どもとみなされます。

また、婚姻成立の日から200日後または離婚後300日以内に生まれた子も、婚姻中に妊娠したものとみなされ、離婚後に生まれても元夫の子どもと扱われるのです。


この規定により、正式な離婚前に配偶者以外の人との間で子を妊娠し、離婚後300日以内に子どもを出産した場合、出生届を出すと、真実の父親は別の人でも戸籍上は元夫の子供と扱われてしまうのです(元夫以外の人を父として出生届を提出しても受け付けてもらえません)。

3 現行の嫡出推定の問題点

時代の変化と共に離婚率も増えており、正式な離婚前に他の男性との間で子どもを妊娠し、離婚後300日以内に出産を迎えるというケースも多数見られるようになってきました。


しかし、戸籍上、血縁上の父でない人の子と記載されるのを避けるため、出生届そのものを提出せず、子どもが無戸籍となるという問題が発生しており、全国的に無戸籍の子どもが存在します。


一定要件を満たせば、無戸籍でも住民票を作成し行政サービスを受けることも可能ですが、中には、戸籍もなく、住民票もなく、公的サービスが受けられない子どもが存在します。

4 答申の内容

上記問題が一定数発生していることを受け、この度の答申では、離婚後300日以内の出産の場合でも、母が再婚後に出産をしている場合には、例外的に再婚した夫の子どもとみなすという規定の追加が答申されました。

同時に、女性に離婚後100日間の再婚を禁じた規定の廃止も答申されました。

 
更に、嫡出推定を否定する訴えを提起する権利についても、現行法では戸籍上の父からの訴え提起しか認められていないところ、母子からも訴え提起できるようにし、かつ、申立期間1年間を3年間に延長するとの答申もありました。

5 おわりに

嫡出推定規定は、法律上の父子関係を早期に確定し、家庭の平和や子の福祉を守るための規定でしたが、DNA鑑定技術の発達や離婚率の変化を受け見直しの時期が来ていると思われます。


法改正により、一日でも早く、一人でも少なく、無戸籍で困る子どもがいなくなることを期待したいです。


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