離婚せずに別居をする場合 生活費などのメリット・デメリット
離婚を考えたとき、その後の生活や子どもへの影響を考えるとすぐに離婚の決断をすることは難しいものです。
とりあえず別居を考えている場合でも、別居する前にこれからの生活に対してのお互いの考えを話し合うことはとても重要です。
本記事では、離婚せずに別居をする場合のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
別居してから「こんなはずではなかった」ということがないように、特に、生活費の分担や公的な扶助などお金に関すること、子どもの精神面への影響、離婚せずに別居を続けることの注意点などをポイントごとにお話しします。
\このコラムでわかること/
・別居すると生活費(婚姻費用)はどうなるのか?
・離婚をせずに別居することのメリットとデメリットについて
1.離婚と別居の法的な違い
離婚と別居は、夫婦関係が破綻した際に選択される二つの手段です。
しかし、これら二つには法的に大きな違いがあります。
離婚は法律的に婚姻関係を解消する手続きです。
離婚をした場合には、夫婦は完全に他人となります。
一方、別居は法的には夫婦のままであり、婚姻関係が続いている状態です。
この違いが、生活費の分担や子どもの親権、さらには相続権などさまざまな法的側面に影響を与えます。
①婚姻費用(生活費)の分担義務
離婚をした場合には、財産分与や養育費の支払いが行われますが、離婚せずに別居をした場合でも、法的には生活費の分担義務があります。
これは、夫婦は相互扶助の義務があるためで、それにより別居していても婚姻費用を負担しなければならないのです。
婚姻費用(生活費)は、収入が多い方から、収入の少ない(または無収入の)方に対して支払い義務が発生します。
ただし、別居の原因を作った側(有責配偶者)からの請求や、結婚生活がすでに破綻し形骸化されている場合には、支払い義務が免除されることもあります。
その場合にも、子供の監護養育に必要な費用の負担については支払わなければなりません。
②公的扶助制度が利用できない
離婚してひとり親となった場合には、児童扶養手当や寡婦(夫)控除といった公的支援制度が利用できます。
しかし別居の場合には、これらの優遇制度を受けることはできません。
別居や離婚を検討しているが経済的な問題で踏み出せな場合は、まずは自治体や専門機関に相談し、どのような公的な支援を受けられるのか確認の上、将来についてどうすべきか考えたほうがよいでしょう。
③勤務先から受けられる手当
会社から従業員の生活状況に応じた支援や手当を提供している場合が多くあります。
例えば、住居手当や家賃補助、扶養手当、通勤手当などがこれにあたりますが、結婚していることで受給している家族手当や扶養手当などについては離婚すると受け取ることができなくなります。
別居しても受けられる可能性はありますが、会社によって受給条件が異なりますので事前に確認が必要です。
④税務上の扶養への影響
離婚せずに別居を続ける場合でも、税務上の扶養により所得税や住民税の軽減措置を受けることができます。
例えば、別居していても配偶者控除や扶養控除を受けることができるため、年末調整や確定申告の際には適切な申請を行う必要があります。
⑤相続権について
夫婦が別居している状態であっても、法的に婚姻関係が続いているため、相続権は保持されます。
夫(もしくは妻)が死亡した場合には、配偶者として法定相続人となり遺産を受け取る権利が発生します。
離婚した場合には、元配偶者に対しての相続権も失われます。
ただし、両親が離婚しても子供の相続権は継続されます。
2.離婚せずに別居を続ける場合のメリット
次に離婚せずに別居を続ける場合のメリットについて詳しくみてみましょう。
①婚姻費用を受け取れる
離婚せずに別居をする場合には、先述したとおり配偶者から婚姻費用を受け取る権利があります。
法律上、婚姻中の夫婦は互いに協力し合い、扶養し合う義務があるためです。
別居期間中に婚姻費用を請求する権利があることで、専業主婦(夫)など、配偶者の収入に経済的に依存している場合でも生活面での不安を軽減できます。
婚姻費用に該当するものは、日常生活に必要な経費(生活費)、家賃や税金、子どもの学費・養育費や医療費、常識的に考えて必要だと思われる交際費などです。
婚姻費用について取り決めること!
婚姻費用については、実際には支払われないケースも少なくありません。
婚姻費用を確実に受け取るためには、婚姻費用の具体的な金額や支払方法について、別居する前に夫婦間できちんと話し合い合意する必要があります。
合意が得られた場合には、合意書を公正証書で作成することをお勧めします。
万が一、婚姻費用の不払いが発生した場合にすぐに強制執行などの法的手続きをとることができるためです。
当事者同士の話し合いがまとまらない場合には、裁判所で婚姻費用分担請求調停という手続きを行い、お互いの収入や、子どもの人数・年齢によって「婚姻費用算定表」を基に、婚姻費用を算出して金額を決定することもできます。
別居後に婚姻費用を請求する場合
婚姻費用の取り決めをせずに別居を始めてしまった場合には、家庭裁判所に婚姻費用の分担請求の申立てをしましょう。
ただし、婚姻費用は申立てた月の分からの請求となり、あとから遡って請求することができません。
②親権者を決めなくてよい
離婚せずに別居を選択することで、子供の親権者を決める必然性がなくなります。
離婚する場合、親権者をどちらか一方に決める必要がありますが、別居の場合は共同親権が維持されるからです。
離婚の際に親権者になれなかった方は法律的には子どもに関する事項の決定権が失われますが、別居の場合は引き続き育児方針や学校選びなどの子どもに関する大切な決定に関与できます。
また、子どもに負担を強いるような親権を巡る争いを避けることができます。
(※補足:令和6年5月、共同親権の導入について民法等の一部を改正する法律が成立・公布されました。2年以内に施行予定となっています。)
③ストレスから解放される
夫婦関係が悪化し、口論やトラブルが頻発している夫婦では、関係修復をしたり、離婚を検討するにしてもまともな話し合いはできないかもしれません。
まず別居することで、互いの距離を保ちつつ冷静に自分の気持ちを整理する時間がもてるでしょう。
また、別居することにより、日々のストレスや緊張感から解放され、心身の健康を維持できるようになります。
④離婚準備を進めることができる
別居期間をもつことにより、離婚準備を進める時間と余裕が得られます。
財産分与や親権の取り決めに関する書類の整理、弁護士との相談もスムーズに行えるでしょう。
離婚準備を進めるために別居期間を有効に活用しましょう。
⑤場合によっては関係修復ができる
一緒に暮らしている間はお互いに対する不満やストレスが蓄積しやすいですが、別居することで物理的な距離ができ、冷静な判断がしやすくなります。
夫婦によっては、距離を置くことで相手の良い面を見つめなおすなど、関係を修復し離婚を回避できる場合もあります。
3.離婚せずに別居を続ける場合のデメリット
次に離婚をしないまま別居を続ける場合にでデメリットについてお話します。
①子どもの精神面への影響
別居をしたいと考えてはみたが、子どものために思いとどまっているという方も多くいらっしゃるでしょう。
お子さんがいらっしゃる場合は、子どもの気持ちに配慮する必要があります。
別居により自身のストレスから解放される一方で、別居による両親の不在や家庭環境が変化が、子どもの精神面に及ぼす影響は非常に大きいからです。
ある日突然、親との関係性を失うことや、別居という不安定な環境により、孤独感や不安感を感じたり、学校生活や友人関係にも負の影響が及ぶ可能性があります。
別居前には子どもの精神面への影響を十分に考慮し、サポート体制を整えることが重要です。
別居中も両親間でのコミュニケーションを確保し、子どもにとって安心できる環境を作る努力が求められます。
②夫(妻)が浮気・不倫していた場合の証拠集めが難しくなる
夫(妻)の浮気や不倫が原因で別居をする場合に、別居をしたことで夫(妻)の行動を直接確認することができず、浮気の証拠集めが難しくなります。
相手の行動が把握できない状況で浮気の証拠を集めるためには、探偵への依頼が必要になる場合もあり、その費用は高額です。
相手の不貞行為が離婚原因となる場合には、その証拠が十分でないと、離婚訴訟において不利になり適切な慰謝料を受け取ることができない可能性もありますので、別居について慎重に計画を立てることが大切です。
③離婚時に財産分与で不利になる
別居したのちに離婚することになった場合、別居中に形成されたお互いの財産については財産分与の対象となりません。
また、全体の資産を把握することが困難になりますので、配偶者による財産隠しなどが行われるなど、財産分与で公平に分けることが難しくなることがあります。
④別居による労力・金銭面の負担
別居を続けることには、多くの労力や金銭的な負担が伴います。
別居を始めると、生活費や住居費などが別々に発生し、経済的な負担が増えます。
また、子どものケアや日常の業務も別々に行う必要があり、時間と労力がかかります。
⑤相手に何かあった場合、扶助する義務がある
別居中でも法的には配偶者に対する扶助義務が残ります。
万が一、別居期間中に相手が病気になったり、失業し収入を失った場合には生活を支える義務があります。
具体的には、病気で入院した場合の治療費や生活費を負担、相手が失業した場合には生活費の補助を行う義務が発生します。
⑥再婚など次に進むチャンスを失う
離婚せずに別居を続けると、再婚や新しい人生のステップに進むチャンスを失うことがあります。
別居していても法的には婚姻関係が継続しているため、新たな関係を築くことが難しく、再婚することもできません。
例えば、別居状態で新しいパートナーとの関係が深まっても、離婚が成立していなければ法的に再婚することはできません。
また、道徳的や社会的な視点からも、別居中の新しい人間関係は複雑な問題を引き起こすことがあります。
別居によってそれぞれが新しい道を歩みたいと考える一方で、離婚せずに婚姻関係が継続していることで、新しい関係を築くことが制約されてしまうのです。
4.離婚しないまま別居を続けることの注意点
ここまで別居する場合のメリットと、デメリットを解説してきました。
次に、離婚しないまま別居を続ける際に、知っておくべき注意点についてお話します。
別居期間が長くなると相手からの離婚請求が認められることも
別居期間が長期にわたると、夫婦関係の破綻を示す一つの証拠とみなされ、裁判所が離婚を認める可能性があります。
例えば、5年以上の別居期間が続いた場合、裁判所は夫婦関係が修復不可能であると判断しやすくなる傾向があります。
法律上、夫婦間には同居義務が存在するため、その義務が長期間果たされないことにより、夫婦関係が破綻しているとみなされるからです。
この場合、相手が離婚を希望している場合には、自分が離婚を望んでいなくても裁判所が離婚を認める可能性が高まるということです。
長期の別居は慎重な対応が必要です。
さらに、長期間の別居は、両親が別々に住み続けることとなり、子どもの精神面にも大きな影響を与えるかもしれません。
子どもにとって両親の離婚は非常に感情的な問題であり、長期間の別居は子どもの心に不安や混乱をもたらすことがあります。
このような状況を避けるためには、長期的な別居にならぬよう、問題の早期解決に向けた具体的な行動を取ることが重要です。
婚姻費用に頼った生活は危険
相手からもらう婚姻費用(生活費)を全面的に期待した生活は非常にリスクが高いです。
婚姻費用の支払義務があるといっても現実には支払われないケースも少なくありません。
支払いがあったとしても継続的に支払われるとは限らず、相手の経済状況や双方の合意により婚姻費用の金額が減額される可能性があります。
また、想定外の事態が発生した場合に、生活基盤が崩れる恐れがあります。
例えば、相手が失業して収入が減った・無くなった場合や、病気になった場合には婚姻費用の支払いが滞ったり、支払いを拒否されるケースがあります。
離婚はせずに別居をする場合にも、相手からの婚姻費用だけに頼るのではなく、自分自身も仕事に就いて収入源をきちんと確保し、生活を安定させることが大切です。
6.ただちに別居すべき状況
別居を決断する際には慎重な判断が求められますが、状況によっては別居が最善の選択となる場合があります。
具体的なケースとしては、相手から暴力やモラハラ(DV)を受けている場合や、子どもが虐待されている場合などが挙げられます。
また、相手が離婚を拒否している場合も合法的に距離を取る方法として別居する選択があるでしょう。
相手から暴力・モラハラ(DV)を受けている
相手から暴力やモラハラ、生活費を渡してもらえないなど、DVを受けている場合には、別居することで自分の身の安全を確保できます。
DVは身体的・精神的に大きなダメージを与えるものであり、直ちに安全な場所に避難することが重要です。
子どもが虐待されている
子どもが虐待されている場合は、子どもの安全を最優先に考えて迅速に行動する必要があります。
子どもに対して被害が及ぶ場合には速やかに警察へ相談してください。
また、避難先にも危険が及ぶ可能性が考えられる場合には、警察のほか、配偶者暴力支援センター、女性相談窓口等に相談し「一時保護施設(シェルター)」への避難を検討しましょう。
シェルターはごく限られた一部の関係者にしか所在地を知らされていませんので、身の危険を感じる場合であっても安心して避難することができます。
最終的には、子どもが安心して成長できる環境を確保するために、弁護士へ相談し法的手続きを進めることも視野に入れるべきでしょう。
7.別居や離婚手続きについては弁護士へ相談を
離婚を迷っているときは専門家である弁護士へ
別居をする場合に、婚姻費用額が話し合いでなかなか決まらない場合や、別居後に婚姻費用を請求する場合には、家庭裁判所への申立て等が必要となります。
自分自身で全てを解決しようとせず、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
また、別居期間を経て離婚を決意された場合にも、離婚には多くの法的手続きが必要です。
財産分与や親権、養育費などの将来の生活に関わる重要な問題が絡むため、弁護士にきちんと相談することで、法的な側面からのアドバイスや手続きのサポートを受けられます。
また当事者同士での話し合いによる離婚が難しい場合には、離婚協議を申し入れますが、書類の準備や協議事項の取りまとめが必要です。
協議離婚が成立しなかった場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停が不成立の場合には裁判によって離婚請求をしなければなりません。
夫婦関係が悪化すると、つい感情的に物事を判断してしまいがちになりますが、弁護士に早期に相談することにより、あとになって自分自身が不利な状況に陥ることを防ぎ、適切な対策を講じることが可能になります。
別居後、離婚後にこうしておけばよかった!ということがないように、離婚問題に精通した弁護士チームのいる一新総合法律事務所へぜひご相談ください。