共同親権等に関する法改正の概要|親権者に関する規律と親権行使について
1.はじめに
令和6年5月、共同親権の導入等を内容とする、民法等の一部を改正する法律(以下「改正法」といいます。)が成立、公布されました(公布から2年以内に施行される予定です)。
本コラムでは、改正された内容のうち親権や監護等に関する点を中心に説明していきたいと思います。
まず、前半では離婚後の親権者に関する規律について説明していきます。
2.離婚後の親権者に関する規律の改正の概要
⑴離婚の際の親権者の指定に関する規律の見直し
現行法では、協議離婚の際、父母の協議により、その一方を未成年の子の親権者に定めなければならないとされています。
改正法では、協議離婚の際、父母の一方のほか、父母の双方を親権者と指定することができるようになります。
また、離婚に関する協議が調わず、裁判上の離婚となった場合、裁判所は、子の利益の観点から、父母の双方または一方を親権者と指定することになります。
改正法は、協議が調わず、裁判所が親権者を定める場合、その判断にあたって、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないとしています。
また、この場合、①子の心身に害悪を及ぼす(虐待)おそれがあるとき、または、②父母の一方が他の一方から暴力等を受ける(DV)おそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であるときなど、父母双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、単独親権としなければならないとしています(虐待やDVは身体的なものに限らないとされています)。
⑵親権者変更に関して考慮すべき事項の明確化
現行法でも、子の利益のため必要があるときは、裁判所は、請求によって、一度指定された親権者を変更できる旨の規定があります。
改正法では、このような親権者の変更が子の利益のため必要かを判断するにあたっては、協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するとされ、考慮すべき事項が明確化されました。
また、協議の経過の判断には、暴力等の有無、調停、裁判外紛争解決手続(ADR)の利用の有無、公正証書作成の有無その他の事情をも勘案するとしています。
このような改正は、不適正な合意がされた場合(脅されて合意をさせられた等)にも対応するためとされています。
3.婚姻中を含めた親権行使に関する規律の改正の概要
次に、親権行使に関する規律(父母双方が親権者である場合にどのように親権を行使していくか)について説明したいと思います。
⑴親権の意味内容
親権とは、親が、子どもの利益のために、監護・教育を行ったり、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について子を代表したりする権利義務とされています。
例えば、子のための入院手続や子に代わって入学手続を行うことが親権の行使に該当します。
⑵婚姻中を含めた親権行使に関する規律の整備
現行法では、親権の行使に関して、「父母の婚姻中は、父母が共同して行う」「父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う」と定められているのみでした。
改正法では、婚姻期間中や離婚後に父母双方を親権者と定めたときは、共同行使することとしつつ、親権の単独行使が可能な場合が定められました。
単独行使可能な場合としては、父母の一方が親権を行うことができないときのほか、「子の利益のため急迫の事情があるとき」、「監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使」が規定されています。
「子の利益のため急迫の事情があるとき」とは、入学手続等の一定期限までに
親権を行うことが必須な場合、DVや虐待からの避難が必要な場合、緊急に医療行為を受けるため診療契約を締結する場合等が考えられています。
「監護及び教育に関する日常の行為」とは、子の身の回りの世話等が該当すると考えられています。
また、父母の意見対立を調整するための裁判手続も新設され、特定の事項に関する親権行使について父母間で協議が調わない場合、裁判所により父母のどちらが親権を行使するか決めることができるようになりました。
⑶監護の分掌に関する規律や、監護者の権利義務に関する規律の整備
改正法では、離婚の際に子の監護者を指定した場合、当該監護者は子の監護及び教育、居所の指定及び変更などについて親権を行うものと同一の権利義務を有し、当該事項を単独で行うことができるとされました。
共同親権者の一人を監護者とした場合、監護者は単独で子の監護や教育に関する事項を行うことができ、監護者でない親権者は「日常の行為」は単独で行うことができるものの、監護者の行為を妨げてはならないとされています。
4.おわりに
共同親権の導入には種々の意見もあったところであり、導入によるメリットだけでなくデメリット(または運用により子や父母を害するリスク)もあるものと思われます。
極力デメリットが顕在化しないようにするためにも、施行されるまでの間に制度について十分に理解することが重要になると思われます。
参考:法務省民事局「民法等の一部を改正する法律の概要」(令和6年5月)
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年10月5日号(vol.297)、11月5日号(vol.298)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。