婚姻費用とは?別居中にもらえる生活費の相場と請求の流れをわかりやすく解説

婚姻費用とは、離婚が成立するまでの間、夫婦と子どもが通常の生活を維持するために、夫婦で分担すべき生活費のことです。

別居を考えたとき、「別居中の生活費はどうなるのか」「家賃や子どもの学費は誰が払うのか」は切実な問題です。

本記事では、下記の点について2026年4月施行の改正民法等も踏まえて弁護士が解説します。

・婚姻費用を請求できる条件や相場
・算定表の見方と計算方法
・婚姻費用分担請求の手続き
・支払われないときの対処法

1. 婚姻費用とは?夫婦が分担すべき生活費

婚姻費用とは、夫婦や子ども(未成熟子)の生活費など婚姻生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

夫婦が収入に応じて分担するもので、離婚が成立するまでは別居期間中、離婚の協議中、調停中、訴訟中であっても婚姻費用の分担義務が発生します。


婚姻費用は、民法760条の婚姻費用分担義務と、752条の夫婦の扶助義務に基づく費用です。

この義務は、自分と同程度の生活を相手にも保障する「生活保持義務」とされています。


ただし、相手の生活費をすべて負担するのではありません。

収入の多い側が多めに負担し、収入の少ない側や子どもを監護している側の生活が成り立つよう、負担を分け直す仕組みです。

1-1. 婚姻費用に含まれる費用

婚姻生活に必要な衣食住の費用が中心で、主に次のようなものが含まれます。

・住居費(家賃・管理費など)
・食費・水道光熱費・通信費・日用品費
・医療費
・子どもの生活費、学費・習い事などの教育費
・通常の範囲の交際費・レジャー費

なお、算定表は公立学校の教育費など標準的な費用を前提としています。

私立学校の学費や塾代、高額な治療費などは算定表に十分反映されていないため、別途考慮を求めることを検討します(3-3参照)。

1-2. 婚姻費用と養育費の違い

婚姻費用とよく混同されてしまうのが養育費です。

どちらも生活費の分担ですが、対象となる期間と人が異なります。

婚姻費用:離婚成立まで(別居中を含む)の配偶者と子どもの生活費
養育費:
離婚後の子どもの生活費のみ

離婚が成立すると婚姻費用の分担義務が終わりますので、離婚成立前に養育費についても取り決めておくことが望ましいでしょう。

なお、2026年4月1日以降に養育費の取り決めをしないまま離婚した場合は、取り決めがされるまでの間、子どもを主に監護する親が子ども1人あたり月額2万円の「法定養育費」を請求できる制度も始まっています。

ただし、これは暫定的な最低限の金額のため、離婚前にきちんと取り決めておくことが大切です。養育費については下記コラムをご参照ください。

養育費とは 金額の取り決め方・不払いの対処方法まで
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2. 婚姻費用を請求できる人・条件

婚姻費用を請求できるのは、一般に収入の少ない側の配偶者です。

ただし、子どもを育てている側(監護者)は、相手より収入が多い場合でも子どもの生活費部分について請求できることがあります。


婚姻費用を請求できる主な条件は次のとおりです。

1. 法律上の婚姻関係が続いていること(請求できるのは離婚成立まで)
2. 別居中、または同居中でも生活費が渡されていないこと(家庭内別居も含む)

2-1. 婚姻関係が破綻していても婚姻費用を請求できる?

婚姻関係が実質的に破綻していても、原則として婚姻費用を請求することができます。

法律上の婚姻が続いている限り、夫婦には婚姻費用を分担する義務があります(民法760条)。

別居中や離婚協議中でも、この義務はなくならず、「夫婦の実態がない」という理由だけで支払いを拒むことはできません。

有責配偶者からの離婚請求を拒否しながら、婚姻費用請求した事例
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2-2. 請求が認められない・減額されるケース

不貞行為をして自ら家を出たなど、別居の主な原因を作った当事者(有責配偶者)からの請求は、本人の生活費部分が認められない、または減額される可能性があります。

ただし、親の事情で子どもの生活が左右されるべきではないため、有責配偶者が子どもを監護している場合でも、子どもにかかる生活費(養育費相当額)は通常認められます。

2-3. 婚姻費用はいつからいつまで?支払い期間

支払いの対象は、基本的に「請求した時点」から「離婚成立(または同居再開)」までです。別居を始めた時点ではない点に注意が必要です。

実務上は、調停を申し立てた時点が基準とされることが多く、内容証明郵便などで請求の意思を明確に示した時点が考慮されることもあります。


請求前の分は、離婚時の財産分与で考慮される余地はあるものの、確実に受け取れるとは限りません。

別居したら早めに、日付の残る形で請求することをおすすめします。

婚姻費用の支払い対象期間

別居開始

原則、支払いの対象外

この間の分は受け取るのが難しい

婚姻費用を請求調停の申立て・内容証明郵便など

この期間が対象

離婚成立(または同居再開)

ポイント:別居を始めた時点ではなく「請求した時点」から。
別居したら早めに、日付の残る形で請求しましょう。

2-4. 婚姻費用はいつ受け取れる?

婚姻費用の受け取り方には、次の方法が考えられます。

離婚協議中の別居なのか、離婚を前提としない別居なのかなど、個々の事情にあわせて受け取りのタイミングは異なります。

別居中に受け取る:
夫婦間の協議や婚姻費用分担請求調停で金額を取り決め、毎月受け取る
離婚成立時に清算する:
養育費や財産分与、慰謝料などとあわせて話し合い、未払い分も含めて金額を調整する
離婚せずに別居をする場合 生活費などのメリット・デメリット
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離婚を考えたとき、その後の生活や子どもへの影響を考えるとすぐに離婚の決断をすることは難しいものです。 とりあえず別居を考えている場合でも、別居する前にこれからの.....

3. 婚姻費用の金額はいくら?算定表の見方と計算方法

婚姻費用の分担は、夫婦の資産、収入、その他一切の事情を考慮してその程度や内容を決めることとされています(民法760条)。

多くの場合は、夫婦それぞれの年収に応じて、婚姻費用が決められています。

婚姻費用の相場は、家庭裁判所が用いる「算定表」(令和元年12月公表の改定版)で確認できます。

現在もこの令和元年版が用いられています。


ただし金額はあくまで目安で、実際は夫婦の年収、子どもの人数・年齢その他一切の事情を考慮して判断されます。

夫婦で合意できれば、金額が算定表と異なっても問題ありません。

3-1. 算定表の見方

具体的な算定表の見方について解説します。算定表は裁判所HPにて確認することができます。

参考資料:裁判所HP 改定標準算定表(令和元年版)

【算定表の見方】

①婚姻費用の表(表10〜19)から、子どもの人数(0人〜3人)と年齢(0〜14歳・15歳以上)に合った表を選ぶ
↓
②縦軸に支払う側(義務者)の年収、横軸に受け取る側(権利者)の年収を当てはめる
↓
③交わった欄の金額の幅(例:「6~8万円」)が月額の目安

例えば、子ども1人(0〜14歳)で、義務者(給与所得者)の年収600万円、権利者(給与所得者)の年収400万円の場合で考えます。

該当する表(表11)の縦軸の給与欄でまず「600」を確認します。

次に横軸の給与欄「400」を確認し、2人の年収の交差点が婚姻費用の目安の範囲ということになります。

今回のケースでは、婚姻費用の目安は6~8万円となります。

算定表の見方

  • 子ども1人(0〜14歳)・妻と同居
  • 夫(支払う側)給与 年収600万円
  • 妻(受け取る側)給与 年収400万円
  1. 表を選ぶ

    子ども1人・0〜14歳なので表11(婚姻費用・子1人表)を使います。

  2. 縦軸で夫の年収を探す

    支払う側(義務者)。左側「給与」の目盛りで600万円を探します。

  3. 横軸で妻の年収を探す

    受け取る側(権利者)。下側「給与」の目盛りで400万円を探します。

  4. 交わる欄の金額を読む

    2本の線が交わる位置の帯が「6〜8万円」です。

婚姻費用算定表(表11)の読み方のイメージ 縦軸の義務者(夫)の年収600万円から右へ、横軸の権利者(妻)の年収400万円から上へ線を伸ばすと、交わる欄は「6〜8万円」の帯に入ります。 2〜4万 4〜6万 6〜8万 8〜10万 10〜12万 12〜14万 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 100 200 300 400 500 600 権利者(妻)の年収・給与(万円) 義務者(夫)の年収・給与(万円)
婚姻費用の目安(月額)6〜8万円
  • ※図はイメージです。実際の算定表とは目盛りや帯の形が異なります。正確な金額は、裁判所の改定標準算定表(令和元年版)表11でご確認ください。
  • ※給与所得者の年収は、源泉徴収票の「支払金額」(税金などが差し引かれる前の金額)です。

年収は、給与所得者なら源泉徴収票の「支払金額」(控除前の金額)です。

自営業者は確定申告書の「課税される所得金額」に、実際に支出していない控除額(基礎控除、青色申告特別控除など)を加えた額が基準になります。

3-2. 算定表の基になる計算方法

算定表は、「標準算定方式」と呼ばれる次の計算方法に基づいて作成されています。

1.総収入から税金・社会保険料、職業費、住居費などの特別経費を差し引いた「基礎収入」を出す(給与所得者は総収入の約38〜54%)
2.夫婦の基礎収入の合計を、生活費の割合を示す「生活費指数」(親100、0〜14歳の子62、15歳以上の子85)で按分し、権利者世帯に配分すべき額を算定する
3.権利者自身の基礎収入を差し引き、残りを義務者が分担する額とする

子どもが成年(18歳)に達していても、大学生など経済的に自立していない場合は、婚姻費用の対象となることがあります。

以下のようなケースでは、個別の事情に応じて金額が増減することがあります。

減額されるケース:支払う側(義務者)が、権利者(受け取る側)の暮らす家の住宅ローンを返済している
増額されるケース:私立学校の学費や継続的な医療費がかかっている

4. 婚姻費用の請求方法|協議・調停・審判

婚姻費用を請求する具体的な方法と流れについて解説します。

【婚姻費用の請求前に準備する資料】

✓ 夫婦それぞれの収入資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書の写しなど)
✓ 家賃・住宅ローン・学費など、毎月の支出が分かる資料
✓ 別居開始日や請求日、相手の回答が分かる記録(メールやメッセージ、内容証明郵便の控えなど)

相手の収入資料は、別居後に入手しにくくなります。同居中に確認できるものは、写しを取っておくと安心です。

①夫婦で話し合う(合意書・公正証書)

まずは夫婦で話し合い、金額や支払方法の合意を目指します。合意内容は必ず書面に残し、当事者双方が署名します。

合意書の本文には、次の内容を記載しておきましょう。

・婚姻費用の月額
・支払方法(毎月の支払日・振込先)
・支払期間(始期と終期)
・学費など特別な支出が発生した場合の取り扱い

合意書を強制執行認諾文言付きの公正証書にしておけば、不払いの際に裁判を経ずに強制執行(差押え)ができます。


また、2026年4月からは、公正証書にしていない合意書でも、子どもの生活費にあたる部分について差押えができるようになりました(5-1参照)。

そのためにも、支払日を「毎月○日限り」のように明確に定めておくことが大切です。


交渉が難しい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

算定表や法的根拠を示して交渉することで、協議の段階で解決できる可能性が高まります。

②家庭裁判所に調停を申し立てる

話し合いがまとまらなければ、相手方の住所地の家庭裁判所(または当事者が合意で定める家庭裁判所)に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。主な必要書類は次のとおりです。

・申立書(裁判所のウェブサイトからPDFファイルの用紙と記入例をダウンロードでき、注意事項も確認できます。参照:裁判所HP)
・夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
・申立人の収入が分かる資料
・収入印紙1,200円分と郵便切手

調停は1か月〜1か月半に1回程度で開かれ、1回あたり2時間ほどかかります。

調停委員を介して算定表をもとに話し合い、合意できれば調停調書が作られます。

調停調書は確定した審判と同じ効力を持ち、不払い時には強制執行ができます。


なお、2026年4月からは、相手が収入資料を出さない場合に、家庭裁判所が収入や資産の情報を開示するよう命じることができる「情報開示命令」の制度が設けられました。

正当な理由なく開示しない場合や、虚偽の情報を開示した場合は、10万円以下の過料が科されます。

③調停不成立の場合は審判で決まる

調停で合意できない場合は自動的に審判手続きに移り、裁判官が一切の事情を考慮して金額を決定します。

審判に不服がある場合は、告知を受けた日から2週間以内に即時抗告ができます。


また、審判を待てないほど生活が困窮している場合は、調停・審判の申立て後に、審判前の保全処分(生活費の仮払い)を申し立てる方法もあります。

5. 婚姻費用が支払われないときの対処法

取り決めた婚姻費用が支払われない場合は、次の方法を段階的に検討します。

履行勧告:調停・審判で決めた場合に、家庭裁判所から支払いを促してもらう(強制力はない)
履行命令:家庭裁判所が期限を定めて支払いを命じる(正当な理由なく従わないと10万円以下の過料)
強制執行:相手の給与や預貯金などの資産を差し押さえる(調停調書・審判書・強制執行認諾文言付き公正証書などが必要。合意書のみの場合は5-1を参照)

婚姻費用は、通常の債権(原則4分の1まで)よりも給与の差押えの範囲が広く、原則として税金・社会保険料を差し引いた残額の2分の1までが対象です(残額が月66万円を超える場合は、残額から33万円を差し引いた額)。

また、一度でも不払いがあれば、まだ支払期限が来ていない将来分の給与も、1回の申立てで差し押さえることが可能です。


さらに2026年4月からは、財産開示手続や第三者からの情報取得手続(勤務先や預貯金口座の調査)を申し立てると、判明した給与などへの差押えも同時に申し立てたものとみなされる、いわゆるワンストップの手続が利用できるようになりました。

2024年に成立し、2026年4月1日に施行された改正民法により、子どもがいる夫婦の婚姻費用については、そのうち子の監護に要する費用にあたる部分(月額8万円×子の数が上限)に「先取特権」が認められました。


これにより、調停調書や公正証書がなく、夫婦間の合意書しかない場合でも、婚姻費用が支払われないときは、相手の給与や預貯金などを差し押さえ、他の一般債権者に優先して回収できるようになりました。

なお、先取特権の対象となるのは、2026年4月1日以降に支払期限が来る分に限られます(同日より前に取り決めた婚姻費用でも、同日以降の支払分は対象になります)。

※先取特権で回収できるのは、取り決めた婚姻費用の額と「8万円×子の人数」のうち、いずれか低い額までです。
(例)取り決めた婚姻費用:20万円/子の人数:3人の場合、先取特権の上限は24万円ではなく20万円になります。

6. 婚姻費用に関するよくある質問

Q.相手が勝手に家を出て行った場合でも、婚姻費用を払う必要がありますか?

A.原則として支払義務があります。生活費の分担は、法律上の夫婦である以上当然の義務だからです。ただし、相手が有責配偶者である場合は、配偶者本人の生活費部分に関しては減額や免除が認められることがあります。

Q.住宅ローンを払っている場合、婚姻費用は減りますか?

A.義務者が、権利者の住む家の住宅ローンを払っている場合は、その一部が考慮され、金額が減ることがあります。どの程度考慮されるかは事案ごとに異なるため、弁護士にご相談ください。

Q.相手の収入が分からないときはどうすればよいですか?

A.調停・審判では、裁判所から相手に収入資料の提出が求められます。2026年4月からは、家庭裁判所が収入や資産の情報の開示を命じる「情報開示命令」の制度も設けられ、正当な理由なく応じない場合や虚偽の情報を開示した場合には10万円以下の過料が科されます。それでも不明な場合は、調査嘱託を利用したり、統計上の平均賃金などから収入を推計して算定したりすることもあります。

Q.結婚してすぐ別居した場合でも請求できますか?

A.婚姻期間の長さは、請求できるかどうかに影響しません。ただし、同居期間が短いなどの事情が金額の判断に影響することはあります。

7. まとめ 婚姻費用でお困りの方へ

婚姻費用は、離婚が成立するまで夫婦が収入に応じて負担し合う生活費で、別居していても支払義務はなくなりません。

月額の目安は、双方の年収と子どもの人数・年齢をもとに家庭裁判所の算定表に当てはめて確認することができます。

原則として請求時点より前の分は受け取れないため、別居したら早めに請求し、取り決めた内容は必ず書面に残しましょう。


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この記事を監修した弁護士

弁護士 髙見澤 周吾

髙見澤 周吾
(たかみざわ しゅうご)

一新総合法律事務所 
弁護士/長野事務所所属

出身地:長野県埴科郡坂城町出身 
出身大学:中央大学大学院法学研究科修士課程修了
2004年に裁判所事務官として採用された後、裁判所書記官、裁判所主任書記官を経て、2024年1月に弁護士登録をした後、長野事務所で勤務。
依頼者の方のお話を親身になって聞き、そのお気持ちに寄り添った解決方法を一緒に模索していきたいと思っています。

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