養育費はいくらもらえる?養育費の相場・算定方法について

離婚を考える際に、一番の不安は子供のこれからの生活のことではないでしょうか。
経済的にやっていけるのか、その不安は大きいと思います。

養育費は、離婚後の子どもの生活を支える重要な要素となります。

「養育費はいくらもらえるか?」
「何歳までもらえるか?」
「未払いを防ぐ方法はないか?」

このコラムでは養育費の基本的考え方、養育費の金額の決め方、トラブル対処方法などについて解説します。

養育費とは

養育費とは、離婚後、子どもが大人として自立できる年齢までに必要な費用のことをいいます。
主に、子どもの衣食住に関する費用、医療費、教育費等です。
子の監護親(子どもと一緒に暮らしている親)又は子ども本人が、非監護親(子どもと一緒に暮らしていない親)に請求できます。
なお、子ども本人が請求する際は、扶養料という言い方をします。

親は子どもに対して、扶養義務を負います。

離婚し、親権者でなくなっても、親子関係が無くなる訳ではありません。
したがって、扶養義務がなくなることもありません。

なお、通常兄弟間や子が親や祖父母に対して負う扶養義務は、自分の生活を犠牲にしない限度で、被扶養者(扶養してもらう人)の最低限の生活扶助を行う義務(生活扶助義務)と解されていますが、親が未成熟子に対して負う扶養義務は、それより強い、自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者(未成熟子)にも保持させる義務(生活保持義務)と解されています。

養育費の相場はいくら?

離婚相談において、「養育費の相場っていくらくらいですか?」と聞かれることはよくあります。

しかし、養育費は、上記のとおり、自分の生活を保持するのと同程度の生活を子にも保持させる義務に基づくものであることから、収入が異なる他の家庭でと比べることにはあまり意味がありません。

婚姻中の生活が、夫婦の収入、資産、社会的状況に応じて、各家庭で異なるように、養育費についても、そのご両親の状況、子どもの人数など、個別の事情で変わるのは仕方がないことなのです。

ですので、相場ということであれば、両親の収入と子どもの年齢、人数に応じて養育費算定表で算定される相当額が相場というべきだろうと思います。
平均や相場ということはあまり意識し過ぎていただきたくないのですが、養育費に関する統計資料としては、以下のようなものがあります。

一つは、厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告[1]」です。

同報告書では、離婚した父親から養育費を受け取っている子1人の世帯の平均月額は4万468円、子2人の世帯の平均月額は5万7954円、子どもの人数にかかわらない全体平均で5万485円と報告されています。


その他、令和3年に全国の家庭裁判所で取り扱った事件の統計資料である「令和3年司法統計」があります。

同統計第25表「調停成立または調停に代わる審判事件のうち母を監護者と定めた未成年者の子有の件数-夫から妻への養育費支払額別子の数別-全家庭裁判所[2]」によれば、子1人のケース総数8177件中、2万円を超え4万円以下の取り決めを行った事案が3088件で数として一番多いという結果になっています。


[1] 厚生労働省HP:「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」

[2] 裁判所HP:「令和3年司法統計年報(家事編)」

養育費の決め方

「養育費算定表」とは?

民法766条1項は「父母が協議上の離婚をするときは、・・・子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と規定しており、養育費は協議(話し合い)で決めるとされています。

したがって、父母が話し合いで子の利益を考慮して決めるのであれば、特に養育費の金額に制限はありません。

ただ、民法766条2項は「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」としており、協議で決まらない場合には家庭裁判所が審判、または裁判といった手続きの中で決めるということになります。

裁判所が判断する場合、または調停等で話合いを行う際に一つの目安とされるのが裁判官の共同研究結果として作成されている「養育費算定表」です。

なお、令和元年12月23日に改定版が公表されています。

▶裁判所「養育費・婚姻費用算定表」令和元年版はこちら

養育費算定表の見方

養育費算定表は、子どもの人数(1人~3人)と子どもの年齢内訳(0~14歳か15歳以上)に応じて9つの表が作成されています。

まずは、ご自身のケースに合う、子どもの人数、年齢内訳の表を確認ください。

次に、支払う側(義務者)の年収ともらう側(権利者)の年収を確認ししてください。

年収とは、源泉徴収票でいう支払総額の金額です。

自営業者の場合は、確定申告書の「課税される所得金額」に「実際に支出されていない費用(例、基礎控除、青色申告控除、支払がなされていない専従者給与など)」を加算して年収を見ることになりますが、自営業者の場合は複雑ですので、できれば確定申告書写しと収支内訳書をお持ちいただいた上で、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。


表の縦軸が義務者の年収、横軸が権利者の年収です。

それぞれの年収額のところで線を引いていただき、表の縦横の線が交差したポイントが養育費相当額の金額ということになります。

表の中のマスは、例えば2~4万円、4~6万円というように帯のように縞々に色分けされていますので、縦横の線の交差したポイントがいくらの価格帯のマスかで養育費相当額を見ることになります。


もし、交差したマスが4~6万円の帯のちょうど真ん中あたりであれば、約5万円が相当額というように考えていただければと思います。 

算定表は「目安」であり絶対ではない

算定表は、一般的な場合を想定して作成されたものであることから、個別の事情により、計算方法の修正等を行う場合があります。

例えば、特別の医療費を要する場合や、私学に通っていて高額の教育費を要する場合などには、増額がなされる場合もあります。

その他、例えば、働く能力も機会もあるにもかかわらず、働いておらず収入がないという場合には、潜在的稼働能力があるとして、一定額の収入を擬制して算定する場合もあります。

算定表を基にした養育費の一例

仮に、「令和3年分民間給与実態統計調査」による男性平均年収545万円、女性平均年収302万円を前提に、母が養育費を請求するケースで考えます。

養育費算定表に基づく相当額を求めると、14歳以下の子が1人の場合は約4万5000円、14歳以下の子が2人の場合養育費は2人分で合計約6万5000円となります。

養育費の支払い期間について

養育費はいつまでもらえる?

養育費は、扶養義務に基づくものであり、成人年齢に関係なく、子が一般的、社会的にみて経済的自立を期待されていない状況にある間(このような状況にある子を「未成熟子」と言います。)は、支払義務があるということになります。

ですので、養育費支払い期間がいつまでかは、個別のケース、子の進学に関する意向や能力、両親の経済状況、両親の学歴、従前の対応などによっても異なります。

例えば、大学進学の可能性が高く、両親の学歴や経済状況等に鑑みても、非監護親(一緒に暮らしていない親)に大学卒業までの生活費を負担させるべきという事案では、「22歳に達した後初めて到来する3月まで」とされる場合もあります。

子が幼い場合などは、子が経済的自立を図るべき時期を具体的に特定することが難しいと言えますが、従前多くの裁判例では満20歳に達する日の属する月までは未成熟子であるとの考えに基づき、養育費の支払いを命じてきました。

民法改正により、令和4年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられましたが、未成熟子の判断に変更を生じさせるような社会情勢の変更はないことからも、改正法施行後も養育費の支払期間に関する裁判所の考え方、判断は変わらないものと考えられています。

養育費は過去に遡って請求できる?

過去分の養育費を請求できるかどうかは、公正証書や調停調書、判決などで、支払義務が明確になっているかいないかで異なります。

ア 取り決めがない場合

養育費が支払われる開始の時点を「養育費支払の始期」といいます。

養育費支払の始期については、ケースによって異なります。

ただ、実務上は、請求時とする例が多いかと思います。

請求時の認定においては、口頭の請求などでは足りず、調停申立時とする例も多いことから、離婚前からきちんと協議し、離婚と同時に取り決めを行う事が理想ですし、仮に、取り決めをせずに離婚を先行した場合でも、協議による解決が難しい場合には、早期に調停申立てを検討いただくのが安全であるといえます。

イ 公正証書や調停調書、判決などで支払義務が明確になっている場合

基本的には、支払期限から5年を経過してしまうと、時効で取れなくなってしまいます。

例えば、2020年5月末日支払い期限の養育費については、2025年5月末日を経過すると、2025年6月1日以降は時効で支払いを受けられなくなってしまうのです。

その後は、2020年6月末日支払い期限の分は、2025年6月末日の経過により時効にかかるというように、ひと月経過するごとに1か月分ずつ時効になっていきます。

養育費は毎月発生するものであることから、一部が時効にかかってしまっても、まだ5年を経過していない期間の分は依然として請求できます。

ただ、ひと月経過するごとに1か月分ずつ養育費を取れなくなっていってしまうことから、そのような場合には、早急に訴えを提起したり、強制執行を申立てるなど時効を止める手続き(時効の更新)を行っていただく必要があります。


なお、時効期間5年の例外として、民法169条1項は、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については」「その時効期間は、10年とする」としています。

ここでいう「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するもの」とは、調停調書や審判、訴訟上の和解、判決など裁判所の手続きで解決したものを指します(公正証書は含まれません。)。

これだけみると、裁判所で合意した養育費の時効は10年になるのかと思われる方もいるかもしれません。
しかし、そうではありません。
同条2項は「前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。」としていることから、「毎月〇日限り、〇〇円を支払え」というように将来の養育費について規定された部分については、裁判所で合意したものであっても、やはり5年で時効になってしまうのです。

ただし、例えば判決で「未払養育費として金〇〇円を一括して支払え」というような規定がある場合には、この部分の時効期間は民法169条1項により、例外的に10年となります。

少し複雑となりますので、原則5年というように考えていただき、支払いが止まった場合いは、あまり放置せず、早期に弁護士の相談を受けていただければと思います。

あとから養育費の金額を変更できる?

養育費は、一度決めたらそれが絶対ではありません。

事情変更があれば増額ないし減額できる場合もあります。

そして、事情変更が認められるためには、

①合意や審判の基礎となった事情に変更が生じたこと
②その事情変更が合意又は審判の時に予想できないものであったこと
③合意ないし審判の内容を維持することが相当でないと認められる程度の重要な事情変更であること

の3つの要件を満たすことが必要と考えられています。

増額請求できるケース

例えば、離婚後に子が重度の病気でることが判明し、高額の医療費を要する状況にある場合などは、予想できなかった事情変更で変更を認めるべき相当性もあることから、算定表で考慮されていた金額を超える医療費については別途負担が命じられる可能性があります。


子どもが大学へ進学したことを理由に増額請求ができるかについては、養育費算定表は公立中学、公立高校の教育費を前提に算定されていることから、それを超える特別な費用については別途認められる可能性があります。

ただ、その際には、特別な教育費を要する進学についての義務者の承諾の有無が問題となります。

進学を承諾していた場合や、進学をした事情や義務者の経済状況、学歴等から推定的承諾が認められる場合には、増額が認められる可能性があるといえます。

減額請求できるケース

離婚後一定期間経過後に、義務者が再婚し、再婚相手との間に新たに子ができた場合には、減額が認められる可能性があります。

養育費に関する注意点と対策

養育費の適正額の判断は難しい

養育費算定表は簡易迅速に養育費相当額を算定するのに有用ですが、特別な加算や減額など修正を必要とする事情があるケースもあります。

また、算定の基礎とすべき年収をどのように考えるのか等が問題となるケースもあります。


一つの参考にしていただきながら、やはり詳細については個別に弁護士の相談を受けていただければと思います。

取り決めは公正証書で

また、養育費を受け取る側の場合、不払いがあった時のことも考えておかなければなりません。

不払いがあったときに、強制執行手続きを速やかにとれるようにするためには、執行認諾文言付き公正証書を作成しておくか、調停調書や判決など裁判所が関与する手続きでの書面が必要となります。

相手が話し合いに応じてくれない場合

弁護士を介して交渉を行うことで感情的対立を避け、協議が進む場合や、家庭裁判所で調停を行い、中立の立場で調停委員から相手方に説明してもらうことで納得が得られる場合もあります。

相手方が協議や説得に応じないには、審判や判決で決めてもらい、差し押さえを行うという方法もあります。


養育費は、子どもの将来にかかわる問題です。

一時的なものではなく長きに渡るケースが多いかと思います。

子どもの将来のためのものですので、話し合いができないからと諦めるのではなく、是非、弁護士にご相談いただきたいと思います。

\養育費に関するコラム/
・養育費を支払わないとどうなる?支払いが難しいときの減額方法
養育費が支払われない!公正証書の作成を

この記事を執筆した弁護士

弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市 
出身大学:青山学院大学法科大学院修了
新潟県弁護士会子どもの権利委員会副委員長を2019年から務めています。
離婚チーム長を務め、主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

弁護士法人 一新総合法律事務所について

PAGE TOP