熟年離婚の場合の財産分与|退職金・年金・持ち家などはどうなる?

婚姻期間が長い、熟年になってからの夫婦の離婚を「熟年離婚」といいます。

婚姻期間が長い分、離婚の際に財産分与の対象となる財産が多額となるケースも多く、かつ、婚姻期間が長ければ、その間に、財産分与や慰謝料など多岐にわたる問題が発生します。

また、定年後となると収入も減少する傾向にあることから、離婚後に安定した生活を送るためには適切な財産分与を行うことがとても重要となってきます。

今回のコラムでは、熟年離婚における財産分与の対象となるものや、話し合いをスムーズに進めるための留意点などについて解説いたします。

1. 財産分与とは? 

財産分与とは夫婦が婚姻中に協力して取得した財産(共有財産)を、離婚する際または離婚後に分けることを言います。

専業主婦の場合も、婚姻期間中の収入は相手をサポートしていたことで得られたものとみなされるため、原則、共有財産となります。

1-1 財産分与の種類

①清算的財産分与

夫婦が婚姻中に取得した財産を、それぞれの寄与度を考慮して平等に分けることを言います。

原則として2分の1の割合で分け合います。

②扶養財産分与

離婚後の生活保障としての財産分与を言います。

どちらか一方が経済的に困窮するなどの特別な事情がある場合に、生計の維持を目的として行われるものです。

③慰謝料的財産分与

慰謝料と財産分与はそれぞれ別の項目として請求するのが原則ですが、それらを一体として財産分与に慰謝料を含めて財産分与を行うことを言います。

\もっと詳しく/
財産分与についての詳細はこちら▶財産分与について

1-2 財産分与でいくらもらえる?

一般的に、「財産分与」という場合は、主に清算的財産分与を言います。

夫婦の寄与度は、特段の事情のない限り、原則「平等」と解されることから、基本的には1/2の割合で清算します


また、婚姻後に取得した財産は、仮に名義は夫婦の一方となっていても、夫婦の協力により得られた財産であれば、「実質的共有財産」と言って、財産分与すべき財産に含まれ、その1/2を分与すべきということになります。


夫婦の一方の特殊な才能などに基づき財産が形成されたと認められる場合や貢献度に格差がある場合など、個別の事情により、例外的に割合が変更となる場合もあります。

1-3 財産分与の対象となるもの

財産分与の対象になる財産(共有財産)

婚姻後に夫婦が共同で形成した財産は、例え名義は夫婦の一方のみとなっていても、実質的には夫婦の共有財産とみなされます。

一般的に対象になるものとしては、不動産(家・土地)、預貯金、保険の解約返戻金、退職金、企業年金などがあります。


ただ、対象になるのは、婚姻後に形成された財産ですので、結婚前に購入して、代金の支払いも結婚前に完済されている不動産などは対象になりません。

預貯金についても、結婚後に形成された部分のみが対象となり、後述しますが、結婚前からあった定期などは特有財産と言い、財産分与の対象外として扱われます。


保険については、解約返戻金の金額を財産としてみます。

ただ、結婚前から加入していたりすると、対象となるのは婚姻期間に対応する部分のみとなりますので、注意が必要です。


退職金についても、将来支払われる蓋然性が高い場合には財産分与の対象となります。

ただし、結婚前から働いている場合などは、婚姻前の勤務期間に相当する部分は、対象外と考えられるため、婚姻期間/勤務期間を乗じて、対象となる金額を算出する必要があります。

算出方法は、現時点で退職したと仮定した場合に受け取れる金額に婚姻期間/勤務期間を乗じて算出する場合や、退職時支給される退職金額から婚姻前の勤務期間や離婚後の勤務期間に相当する退職金額及び中間利息を控除して算定したりします。


年金については、厚生年金については、年金分割制度があり、同手続きで行うものとなりますが、年金分割の対象とならない企業年金や個人年金については、財産分与の中で脱退一時金や解約返戻金を財産分与対象財産とみて整理をすることになります。

対象とならない財産(特有財産)

結婚前から有していた貯金、結婚前に購入したもの、別居後に取得した財産、親から相続した財産、などは財産分与対象外です。


ただし、婚姻時有していた預貯金について、婚姻後に出金等がある場合は、婚姻後別居までの入出金の状況で現在残っている預貯金のうち、いくらが特有財産でいくらが共有財産かを吟味する必要が出てきますので、注意が必要です。

【ポイント】
財産分与の対象となるもの…
婚姻期間中に形成した財産(預貯金、不動産、保険の解約返戻金、退職金、企業年金など)
財産分与の対象にならないもの…
結婚前から所持していた預貯金、購入品、別居後に取得した財産、親からの相続財産など

1-4 財産分与の請求期限は2年

財産分与についての調停や、審判の申立ては、離婚から2年以内に行う必要があります。


その期限の性質は除斥期間と解されています。

時効の更新のような期限を延ばす方法などはないことから、2年間請求手続きを行わないまま経過してしまうと、権利が失われてしまいます。


2年を経過していても当事者双方が合意していれば、分与は可能ですが、一方に拒否された場合には、裁判所に判断をしてもらう請求手続きが取れないので、財産分与については、かならず離婚から2年間以内に行いましょう。

2. 熟年離婚の財産分与の特徴と分け方

2-1 熟年離婚の財産分与の額は?高額になる傾向に

令和3年司法統計年報によると、離婚後の財産分与事件のうち認容・調停成立になった事件の取り決め額と婚姻期間を分析したところ、婚姻期間が5年以下の事案では、財産分与額は100万円以下が半数以上に対し、婚姻期間 25 年以上の場合は、600 万円超~1000 万円以下の割合が最も多くなっています。

▼婚姻期間別 財産分与額の割合について(令和3年司法統計年報より)

※令和3年の離婚後の財産分与事件(認容・調停成立)1289件のうち、財産分与額の取り決めがあり、分与総額の決まった事案(※婚姻期間不詳の事案を除く)1016件から算出した割合
【参考資料:令和3年司法統計年報 家事編

2-2 熟年離婚の際に問題となる財産の分け方

熟年離婚では、退職金、自宅(不動産)など財産分与の対象が増えるため、話し合いが難航する場合も多く見受けられます。

持ち家や土地について

熟年離婚で一番問題になるのは、自宅の問題です。

持ち家も財産分与の対象となりますが、現在住んでいる持ち家はどうすればいいのでしょうか?

1】売却する

売却して、得たお金を分割することが考えられます。


不動産などそのまま分割できないものは、売却して、現金化することで、折半する方法が考えられます。

ただし、オーバーローンの場合や、購入代金の一部に特有財産が充てられている場合などは注意が必要です。

▶関連コラム:離婚時に住宅ローンが残っている場合はどうなる?

【2】どちらかに譲渡

どちらか一方が住み続ける場合などは、住み続ける方が所有権を取得し、もう一方が家の評価額の半額を現金でもらったり、その分、他の財産を多くもらうことで調整します。


住宅ローンが残っている場合は、免責的債務引受や借り換えなどの手続きをとり、所有権を取得する方が債務も引き受けることが多いです。

住宅ローンの契約で、銀行の了解なしに不動産の所有者を変更することは禁止されていることがほとんどですので、残ローンがある際は、譲渡可能なのかどうか、銀行とも相談することが必要です。


財産分与の際の自宅評価額は、売ったらいくらになるかを原則とします。

評価額を巡って争いになることも多く、相手方の納得を得るためにも、いくつかの不動産会社に査定を依頼し算出してもらうとよいといえます。


また、ローンが残っている場合は、財産分与における評価額の算定においては、不動産の売却査定額から残ローン額を差し引いて考えることになります。

退職金について

退職金は将来支払われる蓋然性が高い場合には財産分与の対象となります。

支給までに長期間を要す場合、従前は支給の蓋然性が低くなるとして財産分与対象外と扱われることも多くありましたが、近年は、退職金が給与の後払いと考えられることから、勤務先の性質や、支給根拠などを考慮した上で、支給まで一定期間があるとしても認められる場合も多くなってきています。


既に支給された退職金は、預貯金として財産分与の対象となります。

ただし、婚姻前の勤務期間に相当する部分は、対象外と考えられるため、婚姻期間/勤務期間を乗じて、対象となる金額を算出する必要があります。

③ 年金について

厚生年金や共済年金については、年金分割ができます。

専業主婦の場合でも、婚姻期間中に配偶者が納めた厚生年金の記録を分割して、自分名義に付け替えてもらうことができます。

年金分割により、分割された厚生年金記録に基づき、将来年金が受け取れるようになるのです。

分割方法には、以下の2種類があります。

【1】3号分割

夫婦の片方が第3号被保険者である場合(専業主婦の場合など)に適用される年金分割制度です。

配偶者が第2号被保険者で、婚姻期間中に厚生年金を支払っていた期間は、相手の合意がなくても、離婚後、第3被保険者に0.5で年金分割できます。

相手の合意は不要で単独で手続き可能ですが、離婚後2年以内に年金事務所にて請求手続きを行う事は必要なので、手続きを忘れないよう注意が必要です。

【2】合意分割

夫婦間で金額について話し合い分割割合を決める、もしくは裁判所に分割割合を決定してもらう分割方法です。

夫婦が共働きの場合などで、夫婦共に2号被保険者の場合でも、働き方に差があり、厚生年金記録に金額差が付いていることも多くあります。

その際、公平になるように厚生年金記録を分割するためには合意分割を行う必要があります。合意分割の上限は0.5です。


離婚の場面で、年金分割0.5と言う場合は、この合意分割を指すことが多いです。

厚生年金の記録を、多い方から少ない方に分割して、0.5(=公平)になるように分割することに合意して欲しいという意味です。


原則、年金事務所で配偶者にも協力してもらい、一緒に手続きを行う形となります。

ただ、公正証書や調停で合意した場合は、分割してもらう人単独で年金事務所で手続きを取ることも可能となります。


相手方が年金分割に合意してくれない場合、または割合で合意に至れない場合、離婚後2年以内に家庭裁判所に年金分割審判を申立てて、裁判所に決めてもらうということも可能です。

3. 財産分与の流れ

財産分与は、まずどのような財産があるのか、財産分与の際の評価額はいくらなのかを明らかにすることが必要です。

3-1 財産分与の流れ

①共有財産をリストアップする

②リストアップした共有財産について、金額(評価額や時価)を確認
 ※対象となる財産は1-3-①に記載。住宅ローンなど共有の負債も対象となる。
 ※不動産、車、美術品の査定。保険解約返戻金の問い合わせなど。

③それぞれ名義でいくらの対象財産があるのか、金額を確認


④分与の割合を決める(多い方から少ない方に、いくら分財産を渡せばよいのかを決める。)

⑤分与の方法を決める(現金で分与するのか、不動産で分与するのかなど、何を渡すのかを決める。)

⑥(協議書などを作成)

⑦名義変更や送金を行う

3-2 財産分与の決め方

財産分与の決め方は以下の3つです。

STEP①協議による合意(話し合い)

同時者同士で話し合い、財産分与の内容について合意を目指す。

STEP②調停手続

当事者の話し合いではまとまらなかった場合に、裁判所に仲介をしてもらい合意を目指す。

STEP③裁判手続

【離婚前】調停でも合意に至らなかった場合には、離婚裁判を起こし、その中で財産分与についても判断してもらう。
【離婚後】家庭裁判所に財産分与調停または審判を申立てる。
財産分与調停手続で合意できなかった場合には、自動的に「審判」に移行し、裁判官が判断を出す形となります。

4. 離婚後の子どもの相続はどうなる?

離婚成立後は、元夫婦は他人同士となり相続権はなくなります。

しかし、子どもとの血縁関係は変わらないため、仮に亡くなった人は、親権者になってなくとも、子どもは相続権を有します。

離婚後の相続割合については以下のとおりです。(※子どもが1人の場合で説明)

①元配偶者に再婚相手がいない場合

相続人は子どものみ。子どもが全ての財産を相続する。

②元配偶者が再婚しているが、子どもがいない場合

相続人は子どもと、再婚した現在の配偶者。子どもの相続分は全財産の2分の1。

③元配偶者が再婚し、子どもが1人できた場合

相続人は、離婚した元配偶者との間の子ども、再婚した現在の配偶者、再婚相手との子ども。相続分は、再婚相手が2分の1、子どもはそれぞれ4分の1。

6. 財産分与に関するお悩みは弁護士へご相談ください

離婚時の財産分与について、きちんと話し合うことが離婚後の生活安定のために重要です。

ですが、当事者だけでは納得いく内容での合意が難しいことが多々あります。


熟年離婚の場合には、長年暮らしたマイホームや、築いていた財産が高額になるため、話し合いが難航することも。財産分与でお悩みの場合は、まずは弁護士にご相談ください。

この記事を執筆した弁護士

弁護士 橘 里香

橘 里香
(たちばな りか)

一新総合法律事務所 
理事/弁護士

出身地:沖縄県那覇市 
出身大学:青山学院大学法科大学院修了
新潟県弁護士会子どもの権利委員会副委員長を2019年から務めています。
離婚チーム長を務め、主な取扱分野は、離婚(親権、養育費、面会交流等)、男女問題。そのほか相続、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
メンタルケア心理士の資格を活かし、法的なサポートだけでなく、依頼者の気持ちに寄り添いながら未来の生活を見据えた解決方法を一緒に考えていきます。

弁護士法人 一新総合法律事務所について

PAGE TOP