養育費はいつまで払う?あとから支払い条件を変更できるケースについて
離婚を検討している際に、配偶者との間に子どもがいた場合には、養育費はいつまでもらえるのか?について不安や疑問をお持ちの方も多くいらっしゃるでしょう。
また、離婚後に、ご自身の再婚や収入の増減、子どもの大学進学などに伴い、離婚条件の取り決め時とは事情が異なってきてしまったため、養育費の支払い期間について延長・短縮を希望する場合もあるかもしれません。
本コラムでは、
①養育費は何歳まで支払う必要があるのか?
②支払期間や金額の変更が可能なケース
の2点について、弁護士が分かりやすく解説いたします。
1.養育費は何歳まで支払う?
養育費とは
養育費とは、子どもを監護・教育するために必要な費用です。
一般的にいえば、未成熟子(経済的・社会的に自立していない子)が自立するまでに要する費用で、衣食住の経費や教育費、医療費、娯楽費など、自立するまでに必要となるすべての費用をまとめて「養育費」と呼んでいます。
夫婦の離婚後は、監護親(子の親権者ではないが、実際に子どもを監護すべき親)または、監護親の取り決めがない場合には親権者に子どもの生活にかかる費用の負担が偏ってしまうため、その公平な分担という観点から養育費の請求権が認められています[民法766条1項]。
親には子どもを養育する責任があり、たとえ離婚してもその責任は消滅しないとされているためです。
養育費を請求する場合には、離婚時に当事者間で支払い条件について取り決めを行う必要があります。
2.養育費はいくら?いつまで?
養育費の金額や支払期間は、夫婦間の合意があればいずれも自由に設定することができます。
当事者だけで合意できない場合は、家庭裁判所での調停や審判を経て決定されます。
養育費の支払い期間については、「子どもが経済的・社会的に自立するまで」となっており、裁判や家事審判になった場合には、一般的に20歳になる誕生月までとされる傾向にあります。
養育費の金額をいくらにするのか決める際の根拠となるものは、父母それぞれの年収や、子どもの人数・年齢などです。
それらを基に養育費算定表と呼ばれる早見表によって目安となる金額を算出します。
養育費算定表では、子どもの人数、年齢内訳について自身のケースに合う養育費算定表を使い、支払う側(義務者)の年収ともらう側(権利者)の年収が交差したポイントから養育費相当額を算出します。
年収とは、源泉徴収票でいう支払総額の金額です。
親は子どもに対して「自分(親)と同じ水準の生活を保障すべき」とする生活保持義務があるため、それぞれの家庭の状況により養育費の金額は異なってきます。
また、養育費算定表で相場とされる金額は、公立学校に通っているケースでの計算になっています。
そのため、私立学校へ進学をしている場合には、養育費が増額されることもあります。
▼養育費の金額の決め方についてくわしく知りたい方は▼
3.支払期間が20歳以上または20歳未満となるケース
20歳以上となる場合について
養育費の支払い期間は一般的には20歳とされることが多いですが、個々の事情により支払い期間が延長されることがあります。
①大学や専門学校へ進学する場合
子どもが高校卒業後の進路として大学や専門学校への進学を希望していている場合、または、親の学歴・経済状況から判断して大学に進学する可能性が高いと判断された場合には、養育費の支払い期間を20歳以上に延長することがあります。
それは、20歳に達した以降も経済的に自立した状況になるとは考えにくく未成熟子の状態であり、学費・生活費など、子どもに対する経済的負担が発生するためです。
離婚時に父母で協議をし、子どもの大学進学について了承を得ていた場合には、大学卒業までの養育費の支払いを求めることができます。
その場合、養育費の支払い終期は「22歳となった最初の3月まで(=卒業予定の月まで)」といった内容で合意書面を作成しておくことになります。
離婚時に親が大学の進学について了承していなかった場合には、大学に進学することが決まったからといって、当然に大学卒業までの養育費を請求することはできません。
このようなケースでは、子どもの進学が決定したタイミングで養育費の金額や支払期間の延長について当事者間で再度協議し、支払期間の延長について合意する必要があります。
父母の学歴が大卒であったり、養育費の支払いをする側の親が高収入(生活水準が高くその環境下では進学する可能性が認められる)という場合には、正当な理由があるとして養育費の支払い期間延長が認められる可能性が高まります。
もちろん親の経済状況によっては支払期間の延長について合意が難しい場合もあり、必ず延長できるというわけではありません。
②障害や病気を抱える子どもの場合
障害や病気を抱える子どもに関しては、通常の養育費支払い期間よりも長期間にわたり養育費が必要となる場合があります。
子どもの経済的自立までに通常よりも特別な支援が必要だと考えられるためです。
そのため、養育費を支払う側と受け取る側が合意のもとに、その期間や金額について柔軟に設定することが求められます。
こういったケースでは、法的な観点からも未成熟子と判断し、扶養義務が継続する可能性が高いとされています。
一方で、子が成年に達して以降は、もはや養育費ではなく、子から親に対する扶養請求の問題であると考える見解もあります。
20歳未満となる場合について
離婚時に養育費の支払い期間を20歳までと取り決めた場合でも、子どもが高校卒業と同時に就職し、経済的に自立したと認められる場合には、20歳に達していなくても養育費の支払いを終了することがあります。
また、支払いをする側の親が、養育費についての取り決め時に予測できなかった事由(例えば病気や失業)により収入が減少し、養育費の支払いが困難になった場合には、20歳に達していなくても養育費の減額や免除が認められる可能性があります。
成年年齢18歳に引き下げの養育費への影響
令和4(2022)年4月からいわゆる成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
そのため、離婚時に子どもが18歳以上の場合は、20歳未満であっても子どもの親権の取り決めは不要となりました。
しかしながら、養育費の支払期間が18歳までとなるわけではありません。
養育費は経済的に自立できていない子ども(未成熟子)に対して支払い義務があるためです。
法改正施行前に『養育費の支払いは成年に達するまで』という取り決めをしていた場合は、従前どおり子どもが20歳になるまでは養育費は支払われることになります。
また、実際の調停や審判でも、20歳になるまでと定めることが多いと思われます。
4.再婚が養育費に与える影響とは?
非監護親(支払う側)である親が再婚したとしても、養育費の支払義務は変わりません。
しかし、経済状況や家族構成に変化があった場合には、養育費の取り決めや支払いのあり方に影響を及ぼす場合があります。
①再婚により養育費が減額されるケース
父親(養育費を支払っている側の親)が再婚した場合であっても、養育費の支払い義務は引き続き維持されます。
ただし、再婚相手との間に子どもが生まれた場合には、その子どもに対しても扶養義務が発生するため、扶養負担の増加を理由に養育費の減額が認められる場合があります。
また、母親(養育費を受け取る側の親)が再婚した場合においても、原則としてそれだけで養育費の請求に影響はありません。
しかしながら、母親が再婚したことで、経済状況が大幅に変化した場合、その収入状況に応じて養育費の金額が見直されることがあります。
②再婚相手と子どもが養子縁組をした場合
再婚相手と子どもが養子縁組をすると、監護親、非監護親のいずれの側であっても、実親の負う扶養義務よりも養親の負う扶養義務の方が優先されることになるので、養育費の減額や免除が認められる場合があります。
その場合でも、自動的に養育費が減額・免除されるわけではなく、当事者間で合意をし直すか、管轄の家庭裁判所に養育費減額調停を申立てるなど正式な法的手続きを取る必要があります。
5.養育費の支払期間を変更する方法
支払期間を延長または見直す方法
離婚時に養育費の取り決めをしても、お互いの家庭状況の変化(再婚や収入の増減など)や、子どもの大学進学などに応じて、取り決め時とは事情が変わってしまい、養育費の支払い期間の見直しが必要になることがあります。
支払い期間の見直しを行うには、当事者間で合意を得る方法や、家庭裁判所での調停や審判などの法的手続きを利用する方法などがあります。
当事者間で話し合う
養育費の支払いについて、一度合意した内容を一方的に変更することはできませんが、当事者間での話し合いにより双方の合意が得られれば期間の延長や短縮などが可能となる場合があります。
当事者同士の話し合いになりますので特に難しい法的手続きは不要ですが、トラブルを避けるためにも合意した内容を公正証書のかたちで文書に残すようにしましょう。
家庭裁判所に調停を申し立てる
養育費の支払期間の変更について、当事者同士での合意が難しい場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入り、双方の主張を聞き取りながら中立の立場で話し合いを進め合意を目指していきます。
調停でも合意できずに不成立となった場合は自動的に審判に移行し、裁判所が養育費の支払い期間変更が適切かどうかについて判断します。
ただし、以下の場合には支払い期間の変更が認められない可能性が高いのでご注意ください。
・支払い条件変更について正当な理由がない場合
・どちらかの事情の変化(再婚・失業・病気やケガ・養子縁組など)により期間の延長が公平でないと判断された場合
6.養育費が突然支払われなくなった場合
離婚時に取り決めた養育費の支払いを一方的に取りやめることはできませんが、実際には約束が守られず、不払いになってしまうトラブルは少なくありません。
未払いになった養育費を請求できるかどうかは、公正証書や調停調書、判決などで、支払義務が明確になっているかいないかで異なります。
養育費の支払いについて明記した文書がない場合には、調停を申し立てした時点を請求時とする例が多いです。
支払い義務が明確になっている場合でも、基本的には支払期限から5年経過してしまうと時効となり養育費が受け取れなくなっていまいます。
ただ、養育費は毎月発生するものですので、一部が時効にかかってしまっても、まだ5年を経過していない期間の部分については請求できます。
これらのことから、養育費の未払いが発生した場合は、早急に対応することが必要になってきます。
実際に養育費の不払いが発生した場合に、相手に対し支払いを求める具体的な手順は以下のとおりになります。
①当事者間での交渉_________
電話、メール、手紙などによる催促をします。
②内容証明での請求_________
弁護士に依頼し、内容証明郵便の形で養育費の請求(催促)を行います。
③家庭裁判所からの履行勧告_____
養育費の取り決めが裁判所における「調停」や「審判」で行われた場合は、家庭裁判所の履行勧告の制度を利用できます。
養育費の支払いをするように勧告してくれる制度で、手数料がかからず、簡易に申立てができます。
一方で、支払いに対する強制力はありません。
④強制執行_____________
監護親(養育費を受け取る側)からの履行請求、裁判所からの履行勧告を無視したり、不払いを継続するなど不誠実な対応をした場合、強制執行を受ける可能性があります。
強制執行には「直接強制」と「間接強制」の2種類がありますが、多くの場合は直接強制が取られます。
直接強制とは、預貯金や給与の差し押さえなどを行い、その中から養育費の支払いを受ける手続きです。
給与の差押えがなされると、勤務先に養育費不払いの事実が伝わるとともに、以後、強制的に養育費を給与から徴収されることになるという不利益を受けることになります。
ここで気をつけたいことは、養育費の不払いが発生した際に、離婚協議書(離婚時に取り決めた離婚条件を明記した文書)が公正証書(ただし、支払う側が強制執行を認諾する旨の文言が必要)のかたちで残されている場合にはすぐに強制執行を行うことができますが、公正証書ではない任意の協議書の場合には、家事調停の申し立てを行い養育費の支払いを求めていくことになる点です。
離婚後に養育費の不払いを発生させないためにも、離婚時にしっかりと支払い期間や金額を夫婦間で取り決めし、万が一の不払いに備えて強制執行認諾文言付きの公正証書のかたちで残しておくことが重要です。
養育費の不払いは、子どもが受ける教育や生活基盤に著しい影響を与えることがありますので、支払いが滞った場合には弁護士などの専門家に相談に早急に対応することが求められます。
▼強制執行について詳しく知りたい方はこちら▼
7.養育費の支払い期間に関するご相談は弁護士へ
離婚後も子どもが安定した生活を送るためには、離婚時に養育費についてしっかりと話し合い、双方が納得した条件で合意することが不払いなどのトラブルを防ぐためにもとても重要になってきます。
その際には、合意した金額や支払期間などの条件について具体的に明記した離婚協議書を公正証書のかたちで残すことで、養育費の支払いが滞った際にもすぐに強制執行の手続きに入ることができ後々のトラブルを避けることができます。
養育費の支払い期間は一般的には20歳までとされることが多いですが、親の再婚、収入減、子どもの大学進学など、さまざまな事情により取り決め時と状況が変わってしまうことは少なくありません。
その場合、取り決め時に予見できなかった事情であって、正当な理由であると認められれば期間の延長も短縮も可能となります。
ただ、一度取り決めた支払い条件を変更することは、子どもとの関係性にもよりますが、負担が生じるような条件変更を求められた側にとっては簡単には受け入れがたいものです。
養育費の支払い条件変更を検討したいとお考えの場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が代理人となり話し合いを進めることで支払期間や金額について法的な観点から判断し、公正な条件で取り決めをすることができます。
相手が話し合いに応じてくれない場合でも、弁護士を介して交渉を行うことで感情的対立を避け、協議が円滑に進めることが期待できます。
協議で合意できずに調停や審判など法的な手続きに進む場合でもスムーズに移行することができます。
不利な条件で合意してしまい後になって後悔することがないように、離婚問題でお悩みの場合は、離婚チームのある一新総合法律事務所にまずはお気軽にご相談ください。